ハードコアレポート!

 東南アジアで最も日本に近い国、フィリピン共和国。多くの日本人は「フィリピンは危険」と思ってるだろう。そんなフィリピンのアグレッシブなロックシーンは、日本ではなかなか知られることはないが、確かにある意味「危険」なのだ。
 フィリピンのヘビーメタル、ハードロック専門誌「パルプマガジンPULP MAGAZINE)」。編集長のジョエイ・ディゾン氏に招待され、彼のバンドも出演するライブパフォーマンスを観てきた。
 最初の夜は、マニラ郊外のウエストアベニュー通りにあるライブハウス、ブラックキングスバー。ジョエイ氏がギターのデスメタルバンド、イントレラント(INTOLERANT)、メタルコアアルカディア(ARCADIA)、テクニカルメタルのバッドバーン(BADBURN)等が出演した。
 ジョエイ氏には、午後8時スタートと聞いていたが、そこは時間にルーズなフィリピーノタイム。結局スタートしたのは10時過ぎ。
 待ちくたびれた頃に登場したトップバッターのアルカディアは、ジョエイ氏はメタルコアと紹介していたが、ストレートエッジのハードコアパンクといった感じ。バスケウエアを着たボーカルのマーク。ピョンピョン飛び跳ね、手を振りながら独特のアクションで客を煽る。フィリピンのアンダーグラウンドロックシーンではベテランというだけあって、安定した演奏を聴かせる。曲は、ポップな要素を取り入れながらも決して硬派を忘れないノリのいいもの。タガログ語なので何をしゃべっているかわからなかったが、客席から笑いの起こるMCが意外だった。
 最初は静かに座って観ていた客も、だんだんリズムを取り始め、ひとり、ふたりとステージ前に出てきた。小さなライブハウス(キャパ約100人)なのでモッシュピットができるのは難しそうだが、数人が身体をぶつけ合いながらもハードコアファイティングダンスに熱中する。
 二番手はイントレラント。変拍子を取り入れた硬派なデスメタル。ずんぐりむっくりしたボーカル兼ベースのラッセル、190センチ近くあろうマイクの微動だにしないベーススタイルと、もう彼らの風貌からして硬派。ジョエイ氏は相撲レスラーだった小錦を小さくしたような人物で、太った身体からかあまり動かない演奏スタイルだが、ソロではライトハンドを多用したテクニカルなサウンドを聴かせる。序盤からパワーで押しまくる曲で攻めて行く。終盤になるまでMCはなく淡々と演奏を続け、フィリピンのハードコア野郎のノリも頂点に達した感じだ。ジョエイ氏のバンドの演奏は初めての体験だが、演奏力、安定感、力強さといい、文句なくおススメ。YouTubeでも聞けるのでぜひ検索して味わってほしい。
 三番手はバッドバーン。アップテンポのヘビーなエッジの効いたリフにシャウトボーカルのハードコアラップサウンド。ライブハウスのエントランスで唯一CDやTシャツを並べて売っていただけあって、本日の一番人気だ。店の前でたむろってたファンが大挙して中へ。激しくキレのあるサウンドに自然と身体が反応する。狭いライブハウスは凄まじい盛り上がりを見せ、ボーカルの叫びに合わせて大合唱も始まった。
 この他、デスメタルのシン(SIN)やラップミュージックのMDKの2バンドが出演したが、帰りのジープニーがなくなるとのことで筆者は残念ながら未見である。
 翌日の夜は、マニラからクルマで約1時間のサンペドロにあるロビンソンマーケットラグーナの駐車場での青空テントライブ。ジョエイ氏が審査員を務めたギターコンテストも同時開催され、イントレラントの他、フィリピンではポピュラーなチクサイ(CHICOSCI)、デスメタルDOAの他、ラグーナのローカルバンドが出演した。
 期待した通りのサウンドを聴かせるイントレラント。ライブを体感するのは2回目、筆者はすでに彼らのファンである。華やかさには欠けるが、男気溢れるエクストリームなサウンドに変化はない。しかし、ただ突っ走るだけではない。変拍子で展開に起伏を付けるなど、いい意味でノリを裏切ってもいる。
 さて、この日、最も声援が、しかも黄色い声援が多かったチクサイの登場。ボーカルのミギーがポギ(イケメン)ということで、ステージ横を、押し寄せたセクシースタイルのマガンダ(キレイ)なフィリピーナが占める。アナウンスが流れ始めた時点でフロアにかけ声が飛び交う。音は、哀愁のあるメロディに情緒的なボーカルを乗せたEMO系。ポップな要素もふんだんに盛り込んでいる。なんとなくカート・コバーンニルヴァーナに似てなくもない。曲が終わるごとにチックス(娘)たちの歓声があがり、アイドルバンドみたいだ。それでもステージ前は地元の野郎どものモッシュピットと化してはいたが。
 日曜日になると、ほとんどの国民が教会に行くほどの熱心なキリスト教国であるフィリピン。アンチクリスト、悪魔的要素の音楽が根付きづらい国民性ではあるが、少ないながらもしっかりとメタルファンは存在する。彼らはfacebookで情報を交換し、無理して高いチケットを購入し、仲間たちと精一杯思いっきり楽しむ。革ジャンも、ブーツも、高いアクセサリーも、当然金もない。せいぜいバンドTシャツのみ。ビーサン、もしくは裸足でのハードコアファイティングダンス。まさにハングリー精神溢れる危険なリアルハードコアである。
 筆者も年甲斐も無く、モッシュピットに身を投じたが、本気でぶつかり合い、時に殴り合い蹴り合いながらも、フィリピーノ特有の人なつっこい笑顔が絶えることはない。スタジオや機材など、日本と比べると環境も良くなく、活動できる場所も限られているが、西欧と肩を並べるほどのローカルなバンドも育ってきている。ぜひフィリピンのメタルシーンにも目を向けてほしい。混沌と笑顔。マブーハイ&パタイ!ASTIIIIIIIIIIIIIIG! ヤバいぜ!熱いぜ!フィリピン! 


↑マルンガイという薬草です。スープに入れても炒めてもフライにしてもOKです。このサプリメントは日本ではとても高く入手困難です。しかし、ここでは雑草のようにあちこちに生えてます。ビジネスになりますよ!